2017年02月19日

「北京に核を撃ち込む」宣戦布告

「北京に核を撃ち込む」宣戦布告


「北京に核を撃ち込む」金正男暗殺は中国への宣戦布告だった

『西岡力』 2017/02/17 22:19
 http://ironna.jp/article/5818 より

西岡力(東京基督教大学教授)

 金正日の長男、金正男がクワラルンプール空港で暗殺された。現在、マレーシア当局の捜査が続いているが、韓国の国家情報院は金正恩の命令にもとづく北朝鮮工作機関によるテロだと判断している。私もその見方に賛成だ。

 ここでは第一になぜ金正恩が金正男を殺さねばならなかったのかという事件の動機と、第二に金正日時代の用意周到なテロと比べて今回のテロがあまりにも稚拙なやり方がとられた背景を論じたい。


 第一に、テロの動機についてだ。言い換えると金正恩は正男の何を恐れて殺さざるをえなかったのか、という問いだ。

 消去法で考えたい。金正男は北朝鮮国内ではまったく力を持っていない。正男の存在自体が北朝鮮国内で秘密とされてきたからだ。

 彼の母である成蕙琳は、人気女優であり著名な作家李箕永の息子である李平と結婚し子供も持っていたが、金正日に横恋慕され離婚させられ、正男を生んだ。しかし、人の妻を奪ったことに激怒した金日成はその結婚を認めなかったため、正男は通常の学校生活も送らず、家庭教師による教育を自宅で受け、その後、スイス留学に出た。


過去、金正日が異母弟金平一を強く警戒していたケースと比較すると、平一は金日成に可愛がられ、母親の金聖愛が女性同盟委員長として絶大な権力をもっていたため、周囲に多くの人間が集まって平一閥を形成していたが、正男にはそのような追随勢力はまったく存在しない。



 それでは金正恩は正男の存在の何を恐れたのか。彼が中国の保護下にいたことが許せなかったのだ。金正恩は金正日の死後、5年以上経つのにいまだに北京を訪問できないでいる。それだけ中国共産党との関係がよくない。中国は米韓軍が自国と国境を接する事態をさけるための緩衝地帯として北朝鮮という国家の存続を望んでいる。しかし、金正恩政権に対しては、中国がずっと勧誘してきた改革開放政策を採用せず、核ミサイル開発に邁進し、軍事的緊張を高めていることを苦々しく感じている。そのことを金正恩もよく分かっている。



 正男は改革開放論者だった。1996年、年間100万人あまりの餓死者がでるほど経済が悪化している時期に、金正日から経済再建を任され、改革開放政策を採用しようと提案した。韓国に亡命した元統一戦線部の幹部張真晟氏はその頃、平壌で正男に会い、彼が以下のように話すのを直接聞いている。



「お父さんが国の状況がこの様子なので、私を見て国家経済をちょっと立て直してみろといいました。私は中国式改革開放以外に方法がないと考えます」

 ところが、その提案に接した金正日は「お前は経済よりまず政治から知らなければならない」といってその提案を退け、正男の周りで経済政策を準備していた者たちを逮捕した。改革開放を採用すれば経済は再建できるかもしれないが金一家の独裁体制は維持できないという金正日の冷徹な判断がそこにある。正男が北朝鮮を出て中国を拠点とする海外生活に入ったのはこの事件が契機だった。



私が北朝鮮内部筋から直接聞いたところによると、2015年後半、金正恩は工作機関である党統戦部や国家保衛部海外パートなどに中国共産党の対朝鮮政策を調査分析するように命じたという。その結果、中国は北朝鮮を改革開放に導こうとしており、金正恩政権がそれに従わず核ミサイル開発を続ける場合、正男を使って金正恩政権の倒すことを検討しているという報告が金正恩に上がった。



 2016年1月、金正恩は中国の制止を振り切って核実験を断行した。それに対して習近平は激怒した。それを伝え聞いた金正恩は「中国が正男を使って自分を倒しに来るなら、北京と上海に一発ずつ核ミサイルを撃ち込む」と語ったという。



 同年3月には党員らに下された北朝鮮の内部文書「方針指示文」で「すべての党員と労働者は、社会主義を裏切った中国の圧迫策動を核暴風の威力で断固として打ち砕こう」

 「敬愛する最高司令官金正恩元帥様の卓越した領導で、わが祖国は水爆を含む各種軽量化された核爆弾を完璧に備えた核保有国の隊列に堂々と入った。

 これに驚きおののいた中国は、国連制裁の美名の下に東北アジアでの彼らの派遣的地位が揺らぐことを恐れ、制裁に同調している。

造成された現在の情勢は、われわれ党員と勤労者たちが東北アジアでの政治、軍事、経済的与件を追い求める中国の対北朝鮮敵対視策動に断固として抗い、戦うことを切実に要求している」と中国への核攻撃を示唆していた。



 金正恩からすると正男が中国に保護されていること自体が、自身に対する中国共産党の銃口に見えていたのだ。この恐怖が正男暗殺の一番の動機だと思う。

 ただし、今回の暗殺テロはあまりにも稚拙だった。金正日時代のテロは緻密な準備作業を行ない、プロ級の工作員を使って行われた。日本人が多数拉致されたのも、テロを行うが北朝鮮の犯行だと発覚しないように工作員を外国人に偽装させよという金正日の秘密指令にもとづくものだった。



 今回は監視カメラがまわっている白昼の空港でテロを行ない、実行犯の女性は準備された車両でなくタクシーで逃走して、数日後に逮捕された。そのとき、彼女らは自殺を企図してもいない。これでは金正恩がテロリストであることが全世界に知れ渡る。このようなやり方を避けるべきだという正論を金正恩に告げる側近が誰もいない位、金正恩は政権内で孤立している証拠だ。数年前から軍、党、治安機関、政府などの幹部クラスの亡命が相次いでいる。金正恩政権はこれからも致命的な政策判断ミスを続けながら自壊の方向に向かうのだろう。 



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Posted by かてきんさん at 08:01│Comments(0)北朝鮮中国
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